自分には師匠というか、ルアー作りを始めるきっかけとなった人物が居ます。
それが現Nishine Lure Works代表の西根博司さんなのですが、
出会った頃はシマノ社のルアー、トリプルインパクトのテストをしていて、
西根さんがコンセプトモデルのデザイン、自分がテストアングラーという立場でした。
その頃の西根さんは既にドリームラッシュという伝説のブランドを残しており、
初代アンジュレーターなど、いくつものシマノルアーデザインも手掛けていました。
別にこの人を追いかけたいとか、自分もこの人みたいにルアー作りをしてみたいとか思った訳ではありません。
ただ「欲しい物があるから作る」、そんなアプローチがある事を、
言葉ではなく、行動で教えてくれた人です。
そうして、それが当然であるかのようにルアー作りを始めました。
理由は「欲しい物があったから」。
テストが2年目を向かえた夏、雑誌の取材もあり、西根さんが遠賀川に遊びに来てくれました。
一緒に釣り場で色々な話しをし、釣りを楽しみました。
2日目を向かえ、ふと西根さんが自分のタックルボックスを開けました。
生まれて初めて見ました。
板や工具といったルアーの材料を持って釣り場に来てる人を・・・!
そしておもむろに一枚の板を切り始めると、あれよあれよとルアーの形になっていきました。
時間にして30分程度だったでしょうか・・・
瞬間で目止めして泳がせる状態になったルアーを手渡されました。
「フラットサイドってこんな感じですかね?」
そういって笑う西根さんの顔を、自分はどんな表情で見つめていたのでしょう・・・
鱗こそ無いものの、いつもの西根顔をしたクランクベイトがそこにあり、
驚いた事に鼻の穴までもが開いている・・・
この頃既に駆け出しながらルアー作りを始めていた自分ですが、
そうでなければ理解出来ない部分もあったと思います。
滑るように走る切り出しナイフによって、驚くべきスピードで切削されていく原木。
さらに驚かされたのは、その造形の殆どをナイフで行い、サンドペーパーを殆ど当てなかった事。
正確で美しい曲線を殆どナイフ一本で作り上げていった事でした。
今でもこの30分間を鮮明に思い出す事が出来ます。
この直後、このルアーで釣れた魚よりも鮮明に・・・
たった一度だけ見せてもらった奥義を反芻しながら修行の日々を過してきたかのように、
今でもナイフを持つ度にこの瞬間を思い出すのです。
そして頂いたこのルアーは大切に、自分の宝物として、
時には戒めとなり、時には未来を照らす灯火となり、
いつも工房で自分を励まし続けてくれました。
先日の火災で、工房から持ち出せた、たった一つの宝物。
西根さんから分けてもらったビルダーとしての魂です。
遠くカナダの地で今もその火を熱く燃やす西根さん。
デンプシーテールを生み出した後も、その創作意欲ははちきれんばかりのようです。
既に新作のデザインに取り掛かってるようで、こちらの想像も膨らみます。
ビーツァM7のアンダーレンジを行くクランクベイト。
思わず「よっ!待ってました!」って感じです。
今からとても楽しみでなりません。