デリンジャーへの想い

 

今年ようやく発売出来たルアーにデリンジャーがあります。

ようやく・・・というのはデリンジャーの構想自体はバレットヘッドよりも古く、本来ならmibroブランドの第1号作品になっていたかもしれないという気持ちの表れでもあります。

ハンドメルアーを制作し始めた頃、「タイニーサイズのクランクを作らないのか」という問い合わせをよく頂いていました。その頃作っていたルアーはB7とロデオドライブなど普通サイズの物が多く、自分でもタイニーサイズのクランクを使う事も多かったので、当然いくつか試作をしてみた事もあります。

バルサ製の小さなクランクは普通に釣れました。しかし、製品化においては幾つかの問題点がありました。

その一つが価格面です。

ルアーの値段というのは一般的に大きい程高価、小さな物は価格が安く設定されていて、買う側としても気分的に納得し易いと思います。ところがルアーを作る手間はまったく変わりません。しかし、こんな小さなルアーを2千円台後半で販売するのも気が引けるし、そもそもルアーの値段を決める上で、自分で欲しいと思わない価格はナシだと思っているので、タイニークランクのハンドメイドの販売はウチとしてはあまり現実的ではないと・・・。

そしてもうひとつの問題が、自分の欲しいアクションや機能が、どうもバルサ製よりもプラ製向きなのではないかという点でした。

ルアーの動きは好みが様々なのでそれをどうこういうつもりはないのですが、自分の欲しいアクションはタイニーサイズでありながらそこそこゆったりとした動き。 そもそもタイニークランクはルアー自体のサイズが小さい為ハイピッチになりやすく、バルサ製ではピッチが細かすぎてアクションが小さくなってしまうので、もう少し比重のある素材を使ってしっかり水を動かしたい・・・。(というかルアーが小さいのでゆったり気味のアクションといってもどうしてもハイピッチになってしまう。)スローリトリーブだけのギリギリセッティングではなく、ある程度のミディアムリトリーブでも巻きやすく安定したアクションで泳いで欲しい。それまで色々なタイニークランクを使った中で、自分が好んで使用していたのがバルサ製ではなくプラ製だった理由が少し判明した瞬間でもありました。

そうなると、当時ウッド製ハンドメイドオンリーだったウチではタイニーサイズのクランクを開発する事は難しく、比重を調整した発泡樹脂等で作れないかと、ストリームデザインと協議したりした事もありました。

それから暫くして、マスプロダクツ(量産)ブランドを立ち上げる際、ファクトリーサイドとの最初のミーティングに持ち込んだのはバレットヘッドの原型とデリンジャーの基となるサンプル。 当時の自分は「タイニークランクを先にやりたい」と主張したのですが、「ブランドスタートの最初の作品がタイニークランクなのは難しいだろう」という周囲のアドバイスもあり、バレットヘッドシリーズを先に展開する事にしました。まあ今だからこそ攻めれた設計の部分もあり、勉強不足だった当時ではここまで攻めれたかというと自信はありません。今思えば周りの意見を聞いて良かったと心底思いますww

そんなデリンジャーを今年ようやく発売出来た事はとても嬉しいです。 また、試作モデルを発表と同時に各地のアングラーから熱いメッセージを頂きました。それはとても具体的なご意見で、各地のフィールドのこういう状況で使いたい、という釣り人目線で共有出来る使用イメージでした。皆さん自分と同じように、こういうルアーを望んでいたのだなと改めて思った次第です。

しかしデリンジャーの開発には、途中でとある問題が浮上しました。搭載するフックが無い問題です。ルアーを作る上で搭載するフックの選定は重要です。結構ルアー作りあるあるです。

デリンジャーにはボディサイズの関係でベリーショートシャンクのフックが不可欠でした。それはFURYの時も同じだったのですが、実は数年前、FURYの開発前にテスター契約しているオーナーばりに相談した事があります。こちらの「短く、ファットな形状ルアーの作りたいので、ベリーショートシャンクのトレブルフックを作って貰えませんか」という問いに「要望も多いので是非作りたいです」という回答だったので、こちらもそれに合わせてルアーの開発を進める事にしました。ルアーのテストと並行して、送られてきたフックのサンプルの監修を行うという同時テストをしていたのですが、途中からこちらが望まない方向にコンセプトが変化していきました。担当者曰く「より時代のニーズを反映していきたい」という事でした。自分の意見が通らなかったのは非常に悔しいですが、他所の会社の方針にまで口を出す権限はないので、結局そのフックをFURYには採用しないという結論を出す事しか出来ませんでした。

そんな過去の経験もあり、一応「こちらの欲しい形状のフックを発売する予定はありますか?」と再度問い合わせましたが、「予定なし」との事でしたので、デリンジャーに搭載するフックは自分で探す事にしました。

こうして海外の工場を回って見つけたのがこのフック。日本を含める様々なメーカーのOEMを手掛けるファクトリー製のフックで、ヨーロッパメーカーからの依頼で作った別注モデル。1サイズしかない大きさがデリンジャーに搭載予定の#6だった事はとてもラッキーでした。しかしこれが結構高価で、日本メーカーの物より高かったりします。しかし、自分がどうしても欲しかった形状とサイズだったので頑張って搭載する事にしました。

しかしながら問題もあって残念ながらこのフック、日本では入手出来ません。なのでスペアが欲しいという方に提供出来ないのが難点なのです。「フック単体で販売して欲しい」というお声もよく聞きますが、ウチのような個人事業主がフックの販売までするのは難しく、なんとかこの辺りをどうにか出来ない物かと画策中です。

ただ、来シーズンには非常に面白いフックが日本でも販売されそうです。そうなれば自分のようなクランク好きには堪らないフックが簡単に手に入る事になります。勿論デリンジャー、FURYにも何の問題もなく使用出来ます(メーカーサイドの協力もあり既に確認、実釣テスト済み)。クランク好きにとって面白いシーズンになりそうです。その時はまたこのブログでご紹介すると思います。

こんな紆余曲折を経て、ようやく発売出来たデリンジャー。最初の話しに立ち戻ると、OEMファクトリーからウチに入る値段はバレットヘッドと同じで安い訳ではありません。しかも高価な専用フックを搭載してるのでむしろ高いです。それでも小さなタイニークランクなので価格は安く設定しています。はっきり言って利益率は低いです。ですが発売前に沢山の人が「これ良さそうですね!買います!」と言ってくれたので、思い切ってこういう価格設定を行いました。金型代や開発経費などを差し引くとまだ利益が出ているとは言えませんが、良い物を少しでも安く提供していく努力は続けていきたいと思います。その為に始めたマスプロダクツですからね。

「2018年も頑張っていこう!」

造形にとても苦労したデリンジャーの顔を眺めながらそんな事を改めて思いました。