たかがリール、されどリール。

 

その昔、「何だかよく分からないけど一番高いリールを使っておけば間違いない」とか、「フラッグシップでないと恥ずかしい」みたいな感じでリールを選んでいた自分を変えてくれたリールがありました。

当時シマノ社と契約したての頃、次期モデルとなるコンクエスト100DCのテストモデルの実釣評価をしている最中、担当者が「これはインストラクターさんに見て貰うようなクラスではないんですが・・・」と前置きして差し出したリールがスコーピオン1000Mgでした。

取り敢えず同じくテスト中だったサンプルロッドにつけてキャストしてみると、軽くコンパクトなボディとスムーズな回転、ギアとハンドル周りの軽さによる巻き高い感度と、ショートレンジで釣りをする事の多い自分にはとても使い易いリールでした。

「これ、皆さんが思ってるより遥かに良いリールですよ」と言った覚えがあります。

翌年からの釣りでは、雑誌やテレビの取材ではコンクエスト100DCを使っていましたが、プライベートの釣りや、新しいロッドブランド(後のファイナルディメンション)の企画やテストではスコーピオン1000Mgを使っていました。

その年は同時にアンタレスDCのテスト年でもあり、ブレーキプログラムのテストキャスターとしても参加させて貰ったのですが、使えば使う程「自分には必要ないな」と感じてしまい、翌年の発売時に「アンタレスDC何台必要ですか?」という販売促進課の問いに「アンタレス要らないのでスコ1000Mgあと5台送ってください」と応え、当時10台のスコーピオン1000Mgを使っていました。

今では大手のメーカーさんも中価格帯のプロモーションにも力を入れていますが、当時はフラッグシップ以外殆ど宣伝しなかったので、自分の行動はかなり奇怪に映ったかもしれません。

 

さて、そんな中価格帯マニアな自分が次に手掛けるのがメタニウムMgです。

このリール、企画段階では当時のメタニウムXTをそのままMg化(マグネシウムボディ化)する話が進んでいましたが、これがどうしても違和感があり、デザインからやり直して貰うよう懇願しました。

中身を作る開発担当とは実釣交えたギア比や振動伝達の話を。外側を作るデザイン室の担当者とは人間工学に基づくパーミングと釣りの姿勢を、月に何度も大阪に通ってあーでもないこーでもないと意見をぶつけ合っていました。

スコーピオン1000Mgの良い部分は継承し、欠点をあらゆる角度から分析して潰していくのはとても熱量の要る作業でしたが、当時誰もやっていなかったのでとても楽しかったです。

そしてその次が初代アルデバランなのですが、このリールはとにかく企画を通すのが大変でした。

”超軽量コンパクト、小径スプールにより軽量ルアーのコントロールとライトリグ使用時の感度に優れる”というコンセプトは当時のお偉い方々にはネガティブに映るようで、「王道から外れた枝葉」とか「シマノらしくない」という言葉が返って来た程でした。

それでも周りの社員さん達と一緒に根気よく説得を続け、ようやくアルデバランは誕生するのですが、発売後の評価は低く、相変わらず「シマノらしくない」とか「軽すぎる」といった意見が身内から出続けました。

後にそうした意見を取り入れた「スコーピオン1000」(赤くて蠍印=シマノっぽい)(アルミボディ:重量化)というモデルが出るのですが、あまり良い評価ではなかったと記憶しています。

 

現在のシマノはフラッグシップモデルから中低価格帯まで網羅し、ビッグベイトからスモラバまで、それこそありとあらゆるバスフィッシングシーンに対応する素晴らしいリールをたくさんリリースしています。

リールの企画や開発現場から離れて10年近く経ちますが、毎年この時期はわくわくしますね。

今年はどんなリールは出るんでしょう。

たかが糸巻きのブースに群がる釣り人の熱量を今でも思い出します。