画像は昔某社で手掛けたリールシートの試作モデルたち。
最初にカーボンパイプにエポキシパテでコンセプトモデルを作って企画を出し、デザイン部署のスタッフがモデリングした切削モデルをベースに、湖に泊まり込みで盛ったり削ったりしていた頃のものです。
この形状のコンセプトはより自然な形で握れること。
よくあるトリガーのすぐ前が大きく削れた形状だと、3フィンガーパーミングで薬指、2フィンガーで中指が当たる部分が一番低くなり、人間本来の指の並びからは不自然な形で握る事になります。
そこでトリガーよりもう1本前の指を低くする事で、変に反った形ではなく自然な形でパーミング出来る事を狙ったものです。
しかし、最終的に発売したものがこちら。
大きく違うのはトリガーの形状と、トリガー前に穴が増えた事。
これによって当初のコンセプトからは大きく違うものになってしまいました。
これは当時の責任者の人がG社のリールシートを気に入り、どうしてもこの形状にしたいという要望があった為の設計変更でした。
つまり前半分が自分のコンセプト、後ろ半分が責任者のというハーフ&ハーフな形状となり、少しモヤモヤを残す仕事にはなりましたが、お金を出すのは自分ではないので黙って了承する事にしました。
さて、そこから時を経て、海外のサイトでとあるリールシートを見つけました。
トリガーのすぐ前ではなく、指1本分前が大きく開口した形状と小さく薄いトリガーは、昔自分がイメージしたものに酷似していました。
早速取り寄せて、ロッドに組んでみたのですが、握ってすぐに欠点に気付きました。
このリールシートはトリガー前の側面が大きく凹んだデザインになっており、その為トリガー前の指が当たる部分が細くなっています。その為長時間握っているとこの部分が痛くなってしまうのです。
そこでエポキシ樹脂で埋めて使ってみると、長時間使っても握り疲れがなく、手の小さな自分でも快適にキャストし続ける事が出来ました。
そこで、どうせ埋めるならここにワンポイントになるカラーパーツを作って、それをコンセプトカラーにしようと考え、それがそのままNomadシリーズのブラック×ライムグリーンのカラーコンセプトになりました。
実際に手が当たる部分はこんな感じ。
他の部分はとにかく小さく、一番力が掛かる面積は広げて疲労感や拘束感を軽減するグリッピングコンセプトが完成しました。
とにかく小さくコンパクトに握れる為、これまで2フィンガーでパーミング(中指と薬指の間にトリガー)していた左ハンドルのリールも、右ハンドルと同じく3フィンガーパーミングの状態でキャストからリトリーブまで行えるようになり、とても快適に釣りを続ける事が出来る事が可能になりました。
Nomadシリーズを設計する時、どこの誰にも似ていないロッド、誰も見た事がないロッドを作りたいと思っていました。
プロショップに並んでいても、釣り場で持って歩いていても人目を惹くロッドを目指しました。
でも装飾ではなく中身にお金を掛けたい。
シンプルだけど必要な部分には徹底的に拘りたい。
何より自分自身が欲しいと思う物だけを作りたい。
そんな気持ちを形にしました。
このリールシート、パーツ単価としては結構高いですし、余計なパーツや工程もあるのでそれなりにコストが掛かります。
でも装飾などの部分を必要最小限に留める事で、比較的リーズナブルな価格でリリース出来たと思います。
Nomadシリーズに搭載した拘りのリールシート、是非一度触ってみて欲しいです。