日別アーカイブ: 2018年9月18日

専用設計の先の汎用性

先日とある知人から「これまで色んな専用ロッドを手掛けてきた塚もっさんが、自分のブランドでバーサタイルって、それって進化なの?退化なの?」と聞かれ、そういえばあまり他人の評価とか、自分がどう思われているかとか気にしてなかったなあと今更ながらに思いました。

なので今回はここに至った自分の中の心境を少し語ってみたいと思います。

 

確かにこれまで手掛けてきたロッドはどれも専用色が強い売り方をされてきたように思います。しかしそれはそれまでの日本の市場に欲しいと思ったロッドがなかったからで、かといって海外物の大雑把な作りの物は日本の釣り場で使うには繊細さが足りないなあと感じるものばかり。なので一見専用色の強い特殊なロッド達に見えても、その根底にあるのは「使い易い道具」でした。

そう使いこなせば特別な力を授けてくれるスペシャルなアイテムではなく、普通に使い易く、2、3日連続で使っても疲れない手足のような道具。

そんなロッドがないから作っただけの話。なので特別専用ロッドに思い入れがある訳でも、専用ロッドこそ正義と思っているつもりはありません。ていうか特別変わった竿を企画してたという感覚すらありませんでした。

実は今回手掛けたNomadシリーズ、いわゆる”バーサタイル系の何でもロッド”と言った事は一度もありません。

コピーライターではないのであまり上手に表現出来ていませんが、Nomadが目指したのは”専用設計の先にある汎用性”

例えばある釣り方を徹底的に追及したロッドであるはずなのに、そのロッドは他の釣りにも非常に使い易く、気付けばいつも、何をやる時もそのロッドばかり使っている。そんなロッドに出会う事があります。

また、アメリカのバスプロが同じロッドを何本も使っているのを見る時があります。それらの多くは自身のシグネイチャーモデルだったりするので、プロモーションも兼ての事かも知れませんが、プロ達が自分の釣りのスタイルに合わせたロッドをデザインした場合、それはそのプロにとってどんなロッドよりも使い易く、ルアーやスタイルが多少変わっても、ロッドの強さや調子が変わってしまうよりコントロールし易いのだと聞いた事があります。

Nomadを手掛ける前にアメリカンロッドを色々と触ってきましたが、メーカー推奨ではクランキン用となっているロッドが案外ライトテキサスや軽めのジグに良さそうだなと感じたり、ワームやジグ用に設定されているロッドが実は巻物用としてとても使い易かったりと、アメリカンロッドのバランスを多少弄ってやるだけで日本のフィールドでとても使い易くなる事を見つけました。

なので自分がロッドを1から作るのなら、どんなロッドよりも使い易く、同じ番手を思わず何本も所有したくなるロッドを作ろうと思ったのです。

 

そもそもロッドを構成するメインパーツであるブランクには、その特性を決める部分としてマテリアル(素材)、テーパー(芯金の形状)、パターン(裁断、巻数、目付の角度など)などがありますが、それらの組み合わせ次第では、異なった2つの特性を共存させる事が可能な時代になったと感じます。

それは昔に比べてカーボンの質が上がったり、パターンの設計やローリングの技術が上昇した事により、昔とはまったく違うブランク成型が可能になってきたからだと思います。

昔の竿は「低弾性カーボンはトルクフルでよく曲がり、巻物に良いけどちと重い。だけどこれにしか出せないアクションと巻物投げてるって感じが最高!」とか、

「高弾性カーボンは超軽量で高感度、競技仕様のカリカリ仕様で折れやすいので素人には扱えない」とか、そんな分かりやすいキャラクター設定がなされていました。

しかし、今はロッド製造技術やガイドシステムも大幅に進化し、巻物に必要なフレキシブルな曲がりと、ソフトベイトに不可欠な繊細な操作性を併せ持つロッドというのが作れてしまう時代です。

キャストの難しいタイニークランクベイトやフラットサイドクランクなどは、いわゆるクランキンロッドと言われるトルクフルなグラスロッドよりも、フレキシブルなカーボンロッドの方が風が強い日でもキャストし易く、操作性もフッキングも良く使い易かったりしますが、そんなロッドはテーパーとバランス次第ではプレッシャーの高いシャローカバーに小さなノーシンカーワームやスモラバ、軽量ドロップショットなどを撃っていくフィネスアプローチロッドとしても非凡な性能を併せ持たせる事が可能です。これはロッドの進化だけでなく、ベイトフィネスなどのリールの進化による恩恵でもあり、日本のバスタックルが常に進化し続けている事の証でもあると思うのです。

”自分の欲しい道具を作る”

ロッドのデザインというのは釣り人にとって最も楽しい時間だと思います。だからこそ釣り人は持てる知識や経験を動員して細部にまでアイディアを盛り込みます。

しかし、それが出来るのは全ての権限を持つ者だけ。

どんなに素晴らしいアイディアや熱い想いをぶつけてみても、そのプロダクツを決定する権限がなければそれが採用されるとは限りません。

プロダクツの仕様を決定出来るのは、決済の権限を持つ者だけなのです。

どんなにその有効性を熱弁したところで、会社に「儲からない」とか「技術的に無理」とか言われれば引き下がるしかないのが”持たない者”の宿命なのです。

そういう意味では悔しい思いで引き下がった事が過去十数年で何度もありました。勿論自分にそれだけの説得力も宣伝力もないので意見が通らないのであろう事は重々承知ですが、アイディアを出した側としても自分が欲しいと思う部分が100%満たされないのはあまりやりきれる物ではありません。

こうして自分は自分の”欲しい”という欲望を満たす為だけに、決済の権限を持つ側になりました。

 

Nomadシリーズには最初から完成イメージがあって、それを実現する為にはどうするか、という手法で取り掛かった為、常に一寸先は闇、飛び込んでみないと分からない状態ではありました。でも、B7やバレットヘッドのようにまず完成イメージがあり、それが欲しいから作るという目標があれば例え壁に当たっても決して方向転換する事なく、真っすぐ突き破るしかありません。それがどんなに非効率であってもブレさえしなければいつかは完成します。

ロッドブランドをメーカーとして始めるというのは、既存のブランクを買ってきてグリップやガイドを取り付けるのとは訳が違います。よく「Nomadはどこのブランクを使ってるんですか?」と聞かれますが、ブランクに限らずグリップのEVAやハイカコルクに至るまで、向こうの技術者と顔を突き合わせて図面を睨めっこしながら設計するNomadオリジナルブランクとパーツです。

 

Nomadの初期イメージ段階で、1本のロッドでオカッパリをやる事も、ボートフィッシングで同じ番手を何本も揃えてデッキに並べる事も想像しました。

巻物とフィネス、ジグ撃ちとフロッグ、フリップとビッグベイト、異なったアプローチを同じシャフトで完璧に遂行するには、専用ロッドの何倍もの緻密な設計が必要です。

まあ元々ロッドビジネスに関しては自分が心から納得いく物を作りたいと思っただけで、自分と仲間達が満足すれば大して売れなくてもいいや、という気持ちで始めました。

でも、今ではそんなNomadのコンセプトを知ってか知らずか、同じ番手を複数本所有しているというアングラーに多く出会うようになりとても嬉しいです。

勿論ウチの商品を買ってくれたという嬉しさもありますが、自分達のコンセプトを理解し、自分達と同じ楽しみを共有してくれているというのがとても嬉しいのです。

今シーズン、Nomadを買ってくれた全ての皆さんに、心より感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

色々細かい部分で足りない部分もあるかと思いますが、これからも皆さんと釣りを楽しんで行けたらと思っております。